Cafe ficiton sterra ragazza
人物紹介
恵庭千歳 (えにわ ちとせ)(17) 本作の主人公。自分の居場所を確保するために、自分が役に立つ人間だと伝える事を第一に考える癖がある。どうすれば自分は見放されないか。そればかり考えている。
鈴木悟 (すずき さとし)(30) Fictionのオーナー。落ち着いた性格で常識人ぶっているが、どこかずれている。恋愛や家庭等で複雑な過去を持っている。店には変な人物しか来ないが、それを密かに気に入っている。デジタルが苦手。
明星沙耶 (あけほし さや)(22) Fictionのパート。あるきっかけがあり、Fictionで働くことになった女の子。遅刻がちで、結構おバカ。なのに、この店ではつっこみ役に回ることが多い。辛い時でも笑顔でポジティブが信条
遠藤美穂 (えんどう みほ)(25) カフェの常連。出勤前にコーヒーを飲むのが習慣になっている。物事に影響されやすく、それを店長とさやに語り倒しては仕事に行くのを日課にしている。
星月明日香 (ほしつき あすか)(19) 双子の姉。妹のことを溺愛しており、引きこもりがちな妹を心配しつつも、妹の考えを尊重して、そっと見守っている。外出する時は必ず付いてく。
星月響 (ほしつき きょう)(19) 双子の妹。物静かで人見知りで、引きこもりの少女。オタク趣味で古いオンラインゲームを好んで遊ぶ。最近は心境の変化でよく外出するようになっている。
新村望 (にいむら のぞむ)(26) 仕事はできるが、私生活において抜けている。会計事務所勤務。遥香とは今年で3年目の付き合い。遅刻が多い。
山中遥香 (やまなか はるか)(25) 望の恋人。望は友人の友人と言う形で紹介してもらった。望の素直な部分に惹かれる。
保房娃早 (ほぼう あいさ)(28) 保育士。古い常連であり、店長と仲がいい。マイペースで、のんびりした人物。自分の名前が珍しく、仕事の保育士(保母)と名前が似ている事ををネタにして、相手の反応を見るのを楽しんでいる。
佐藤理恵(さとう りえ)(25)店長の幼馴染。過去店長との口論の末、店を飛び出し、そのまま交通事故に遭い、帰らぬ人となった。その後は、店の地縛霊になっており。店と関わりが深い悟と沙耶にしか見えない。
恵庭恵 (えにわ めぐみ)(35) 千歳の母で悟の姉。結婚後旦那が蒸発。苗字は元に戻さずそのまま旦那の姓を名乗っている。千歳を友人宅に預けては、男を家に泊めたり、旅行などに行ったりしている。鈴木家とは千歳が生まれる前に縁を切られている。
【プロローグ】
人気の少ない路上
キャリーケースとメモを持った千歳がうろうろしている。
千歳 この辺のはずなんだけど……。おかしいなぁ。
メモと周辺を交互にキョロキョロ見回している
千歳 はぁ、憂鬱……。えっと、家事と炊事が出来ます。なんでもやります……は言い過ぎかな……。あー、でも、断られたらどうしよう。他に行くあてなんてないからなぁ。最悪野宿……。いやだぁ。
ぶつぶつ言いながら周辺をうろうろしている。やがて、カフェの看板が見えてくる。
千歳 あ、カフェ、フィクション……。ここかな。
メモと店を見比べたり、店の中を覗いたりしている。
千歳 よし、行くぞ……行くぞ!
意を決して店の中に入ろうとしたその時、丁度出てきた沙耶とはち合わせる。
千歳 わ!
沙耶 お?……ん~?
千歳 あ、え、その……
沙耶 ん~。あ! お客さんですか!
千歳 え?
沙耶 店長ー! お客さんですよー!
千歳 ま、待って!
悟 そんな大きな声出さなくても聞こえるから!
沙耶 店長―! ハリー!
店から悟が出てくる
沙耶 えへへ。
悟 えへへじゃない。
沙耶 すみません。
千歳 あの……。
悟 あ、ごめんなさい。どうぞ中へ。
千歳 いや、あの私!
沙耶 いいからいいから!
千歳 え~!?
千歳を店の中に押し込む沙耶
【第1章】
千歳を押しながら店内に戻る。中では保房、明日香、響。話し合いをしている
保房 楽器とかはどうですか~?
明日香 楽器か~。響って楽器できたっけ?
響 ん~、カスタネット?
保房 私はトライアングルが出来ますよ~。
明日香 私は木琴とか……。打楽器ばかりじゃない!
響 お姉ちゃん、文句ばっか。
明日香 えー、だって……。
響 だってじゃないよ。
保房 まぁまぁ、まだ時間はありますから~。
鈴の音、沙耶と悟、千歳が店に入ってくる
悟 沙耶 いらっしゃいませ、カフェフィクションへようこそ。
沙耶が千歳を席に案内する
沙耶 さぁさぁ、お席へどうぞ。
千歳 は、はい。
明日香 店長! アイスコーヒ―!
悟 はいはい~。
悟はコーヒーを作りに厨房へ
沙耶 御注文はお決まりですか?
千歳 え! あ、アイスカフェラテを。
沙耶 かしこまりました! 店長! アイスラテです!
悟 はーい!
店の中をキョロキョロ見回す千歳
三人で話し合いをしている保房、明日香、響
千歳 ……
保房 ここは~、やっぱり~、子供たちの教育の為に、アートなお遊戯会が一番だと思うんですよ~。
明日香 この間やった桃太郎みたいな奴? でも、保房さんのアートは子供には難しくない?
響 私は好きだよ。アート。
保房 響さんと店長ぐらいですよ、私のアートを理解して下さるのは~。
明日香 二人しか理解できないのはどうなの? 因みに演目の候補は?
保房 お任せください~。行きますよ~。
明日香 え?
保房が立ち上がり、演技モードに入る
保房 君、勉強と言う物は、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たない物だと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間の許す限り勉強しておかなければならん。
明日香 ちょ、保房さん?
響 おおー!
保房 日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君達の人格を完成させるのだ!何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから~!
明日香 保房さん!他のお客さんもいるから!ステイステイ!
保房 あら~、これはこれは~。少し熱が入ってしまいました~。
明日香 本職本当に保育士なんですか?女優とかの方が向いてるんじゃ。
保房 いえいえ~、私には無理ですよ~。あそこは魔窟ですから~。
明日香 魔窟?
響 さっきのは、なんのお話しなの?
保房 今のは、太宰治の正義と微笑と言う作品の一説です~。
響 太宰治?
明日香 知らないの?
響 うん。
保房 太宰治は昭和初期の小説家ですよ~。他にも~、人間失格や~、走れメロスなんかもありますね~。こほん。それだから、走るのだ。
明日香 ちょっと保房さん!?
保房 信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題ではないのだ。人の命も問題ではないのだ!
明日香 ステイ!ステイ!
保房 私は、なんだか、もっと恐ろしく大きい物の為に走っているのだ!
明日香 保房さーん!
保房 着いてこい!フィロストラトス!
響 おお~
千歳 す、すごい……。
悟がアイスコーヒー、アイスカフェラテを持って厨房から出てくる。
悟 お詳しいですね。
保房 ファンなんです~。彼の作品を呼んでいると、不特定多数の読者ではなく、自分にだけこっそり、話しかけてくれるような。そんな気がして。
明日香 響 へぇ~。
明日香 国語の教科書に出てくるイメージしかなかったなぁ。
響 あったんだ。知らなかった。
明日香 響は不登校だったもんね。
響 学校怖くて行けなかった……。
明日香 いいのよー。お姉ちゃんが養ってあげる。
保房 明日香ちゃんは、響ちゃんにアマ甘なんですね~。
明日香 そりゃ、この世界でたった一人の妹だからね! 大切も大切よ。
響 ん~、甘えるー。
悟 姉妹で仲がいいのはいい事ですよ。響ちゃんもお姉ちゃんを大切にしないとね。
響 うん、お姉ちゃんは大切。
明日香 お姉ちゃんとしては、響に友達の一人でもできた方が安心なんだけどね。
悟 難しい姉心ですね~。
保房 そうですね~。
沙耶 あの~、お話脱線してますよ~。
明日香 は!?
響 おー!
保房 あら~。
沙耶 このままではいけませんね! ここは、私の提案、リアル鬼ごっこをやってみてはいかがでしょう!
悟 なぜそうなる!
沙耶 習うより慣れろです! さぁ! 佐藤さん! 逃げてください! 逃げないと死んじゃいますよ!
全員がきょとんとした顔をしている。
沙耶 あれ……?
悟 鈴木です。
保房 保房です~。
響 明日香 星月です。
沙耶 んが!? ま、まだです。そこのあなた!
千歳 はい!?
悟 ちょっと沙耶ちゃん!?
沙耶は千歳を標的にする
千歳 わ、私ですか!?
沙耶 そうです! あなたです! お名前は!?
千歳 え、恵庭、です。
悟 恵庭?
沙耶 ああー! ここでもこんな珍しい苗字が! 何故ですか、何故このお店にはポケGOのラプラスみたいなレア度の苗字が集まるんですか!
悟 たとえが万人向けじゃないし鈴木は別に珍しくないよ!
沙耶 そうですね! 店長はドードーレベルです。
悟 良く出てくるってことは分かったよ!
千歳 え、となんかすみません。
響 ねぇ、あなた。
響は千歳に話しかけた。
千歳 は、はい!
響 何かいい案はないかな。
悟 響ちゃん!?
千歳 え? 私のですか?
響 うん、聞かせてほしいな。
明日香 ああー、ごめんね。いきなり巻き込んじゃって。最近、知らない人に話しかけるようになっちゃってて。
響 このお店に来る人なら、大丈夫って、前お姉ちゃん言ってたよ?
明日香 言ったけど、それは常連の人の話でしょ。この子はさっき初めて来たの。
千歳 あ、いえ、それは、大丈夫……です。あ、案と言っても、そもそも何を話し合ってるんですか?
保房 私が勤めている保育園で、先生方が、園児達に向けてお楽しみ会をすることになりまして~。
響 それに、私達も参加させてもらうの。
千歳 参加?
保房 私のお手伝いと言う形で特別に外部の方の参加を認めてもらったんですよ~。
明日香 私と妹の響、保房さんの3人で何かやろうってことになったんだけど。
沙耶 かれこれ3時間。何も決まってないですねぇ。
千歳 なるほど……。えーと、案ですよね。ん~、さっきの太宰治では駄目だったんですか?
保房 あなたもそう思いますか? やはり、ここは人間失格など~。
明日香 はーい保房さんステーイ。えっと、駄目ではないんだけど。園児に対してはどうなのかなと……。
保房 やっぱり、面白くはないんでしょうか……。普段の作品も、園児達には、あまりウケがよろしくなくて……。
千歳 子供達には少しメッセージ性が強いかもしれませんね。
悟 保房さんの書く作品は、社会的風刺が良く効いてるんですよ。今だったら、何になるのかな?
保房 都知事選の内容とか混ぜ込みたいですね~! ユーチューバーの立候補者の話とか!
沙耶 それは気になります!
明日香 あの人はなおさら子供には見せられないでしょ!
千歳 えっと、そしたら、お二人のどちらかが台本を書いたらいいんじゃないですか?
明日香 え?
響 私達?
千歳 はい。
保房 私は構いませんよ~。
明日香 いや、でも私、お話とか書いたことないし。
響 お姉ちゃん。私やりたい。
明日香 え?
響 やってみたい。
明日香 ……うん。そうね。今回は響がやりたいってい言ったことなんだから、響のやりたい事やろっか!
保房 決まりですね~。
沙耶 よかったですねー! これは本番の日が楽しみです!
悟 そうだね。3人とも頑張ってください。
明日香 そうと決まったら、まず作品作りからね! さっそく図書館に行ってみましょう!
保房 響 おー!
明日香 店長! お会計!
悟 はいはい。1800円ですよ。
保房 ここは私が出しますよ~。
明日香 ありがとうございます!
保房と悟、お会計のやりとりをする。
響は千歳に近づいていく。
響 ねぇ。
千歳 は、はい!
響 あなたの名前を教えて。
千歳 え、な、名前ですか? 恵庭、です。
響 さっき聞いた。下の名前。
千歳 千歳、です。
響 私は、星月響。
千歳 ……綺麗な名前ですね。
響 ありがとう。じゃ、またね。
明日香 響! 行くよ! ありがとうね。
保房 ありがとうございました~。では、また~。
慌ただしく、3人は店を後にする。店に残ったのは千歳、沙耶、悟、理恵。理恵は変わらず周りを気にせず、コーヒーを飲んでいる。
悟 あっはっは、まるで嵐みたいだったね。
沙耶 そうですね~。
沙耶は残ったグラスを片付ける
千歳 あの。
悟 あ、ありがとうございます。急な事に付き合って頂いて。
千歳 いえ、全然大したことは……。それよりも、店長さんの名前は、鈴木悟さんでお間違えないでしょうか?
悟 そうですけど。
千歳 ……あの
大きく息を吸い。今まで準備していた言葉を一気に吐き出した。
千歳 家の事、全部やります! 家事も炊事も得意です!お店の手伝いでもなんでもやります!なるべく迷惑をおかけしません!だから、しばらくの間、私をここに置いてください!
悟 ……。
沙耶 ……。
千歳 あの……。
悟 あ、ごめ
沙耶 店長おおおお! どういう事ですか! こんないたいけな少女にこんな事言わせるなんて、一体どこで犯罪を犯してきたんですかああ!
悟 はぁ!? 何言って……
沙耶 信じられません! 今まで信じていたのに! 店長がああ、店長がロリコンだったなんて……。私はどうしたら……。
悟 あの、沙耶ちゃ
沙耶 店長! 今ならまだ間に合います。人の道を外れる前に、どうか改心を! は!? もう外れてる? 店長おおお! 自首してくださいいい!
悟 あああ! もう! シャラーップ!
沙耶 はいっ!
悟 Sit down!!
沙耶 はいっ!
悟 はぁ……。
千歳 えっと……。
悟 ああ、ごめんね。えっと、もう一回名前を聞いてもいいかな?
千歳 はい。恵庭千歳です。
悟 そうか、恵庭……。
千歳 あの、母から何も聞いていませんか?
悟 僕の知っている人なら、うん、聞いてない、かな。
千歳 これを、鈴木さんに渡すように言われています。
千歳は封筒に入った手紙を悟に渡した。
悟 このデジタルの時代に手紙とは……。
沙耶 店長、デジタル苦手じゃないですか。
悟 最近はましになったよ!
封筒を開け、中の手紙を読む悟。
悟 はぁ、やっぱりか……。
千歳 ……。
悟 お母さんから、僕の事は?
千歳 親戚の方としか……。
悟 そっか。
沙耶 店長?
悟 改めて、僕は鈴木悟。君のお母さん、恵庭恵の、実の弟だよ。
千歳 弟?
悟 千歳ちゃんからしたら、僕は伯父に当たるわけだ。
千歳 え?
沙耶 ええええええ!? それじゃ、この子って!?
悟 僕の姪っ子になるわけだね。
千歳 伯父さん……?
沙耶 店長にこんなに可愛い姪っ子さんが……。
悟 それはどういう意味? それにしても、本当に姉さんは何もかも事後報告なんだから……。
千歳 ……すみません。
悟 千歳ちゃんが謝る事じゃないよ。
千歳 ……はい。
悟 よかったら、教えてくれないかな。千歳ちゃんの事を。せっかく可愛い姪っ子が遊びに来たんだ。コーヒーでも飲みながらゆっくりね。
千歳 ……はい。
第2章へ続く